バリ州の文化的景観:トリ・ヒタ・カラナの哲学を表すスバック・システム

登録年
2012年
所在国
インドネシア
登録区分
文化遺産
地域
アジア
登録基準
(iii) (v) (vi)

どこにあり、何が登録されたのか — 水の寺が管理する

インドネシア・バリ州。五つの棚田とその水の寺からなり、19,519.9 ha(説明文は19,500 ha)を覆います。

本体 19,519.9 ha
緩衝地帯 1,454.8 ha
登録 2012年、基準 (iii)(v)(vi)
構成 連続資産(serial)。推薦書は 1194rev

スバックとは何か

寺が、運河と堰の協同的な水管理の仕組みの焦点です。この仕組みがスバック(subak)と呼ばれ、9世紀にさかのぼります。

米、それを支える水、そして水を統御する協同の社会の仕組みスバックが、合わさって過去千年にわたって景観を形づくり、宗教生活の不可分な部分をなしている。 米は神の贈り物と見られ、スバックの仕組みは寺の文化の一部である。泉と運河からの水が寺を通り抜けて水田へ流れ出る。

水が寺を通ってから田に行きます。これが「寺が水を管理する」ということの具体です。

11世紀以来、水の寺の網は流域全体の規模で棚田の生態を管理してきた。それらは起伏の激しい火山島で密な人口を支えるという課題への独特な応答を与えている。

規模

全体としてバリには約1,200の水の共同体があり、一つの水源からの給水を50〜400人の農民が管理する。

トリ・ヒタ・カラナ — 三つの領域

スバックの仕組み全体は、バリの哲学的な原理トリ・ヒタ・カラナ(Tri Hita Karana)を例示します。それは霊の領域・人間の世界・自然を一つに引き合わせます。

水の寺の儀礼は、自然界の生命を支える力への依存を強調する儀礼の概念に人びとが能動的に関わることを通じて、人びとと環境との調和した関係を促す。

この哲学は過去2,000年のバリとインドの文化交流から生まれ、バリの景観を形づくってきたとされます。

基準 対象
(iii) 少なくとも12世紀以来バリの景観を形づくった文化的伝統は、古代の哲学的概念トリ・ヒタ・カラナである。スバックの景観の水管理を支える水の寺の集会(congregations)は、儀礼・供物・芸術的な上演の精緻な連なりを通じて自然と霊の世界との調和した関係を保つことを目指す
(v) 五つの景観はスバックの仕組み——水の寺と灌漑の統御に焦点を置く民主的で平等な仕組み——の例外的な証。バリにしか現存しない
(vi) バリの水の寺は独特な制度で、千年以上にわたっていくつかの古代の宗教の伝統——シヴァシッダーンタとサーンキヤのヒンドゥー教、金剛乗仏教、オーストロネシアの宇宙観——から霊感を得てきた。寺の儀礼と、水の実際の管理における役割が合わさってトリ・ヒタ・カラナの考えを結晶させる

基準(v)の「民主的で平等な仕組み」という言い方は、ケルソネソス(1411)の「民主的な土地組織」と並べて読めます。バリは水、ケルソネソスは土地の区画です。

五つの構成資産

資産は、スバックの仕組みがいまも完全に機能し、農民がいまも化学肥料も殺虫剤も使わずに伝統的なバリ米を育てており、景観全体が聖なる意味合いを持つと見られている五つの場所からなります。

構成資産 中身
プラ・ウルン・ダヌ・バトゥール(至高の水の寺) バトゥール湖の縁。その火口湖はあらゆる泉と川の究極の源と見なされている
パクリサン流域のスバック景観 バリで知られるもっとも古い灌漑の仕組み
チャトゥル・アンガ・バトゥカルのスバック景観 10世紀の碑文に言及される棚田を含み、バリでもっとも古いものの一つ。古典バリ寺院建築の主要な例
プラ・タマン・アユン(王の水の寺) もっとも大きく建築的に際立った地域の水の寺。19世紀の最大のバリ王国のもとでのスバックの仕組みの最大の拡張を例示(18世紀)

スバックの構成要素

要素
給水を守る森
棚田の景観
運河・トンネル・堰の仕組みでつながれた水田
村
水源を標すか、下流のスバックの土地を灌漑するために水が寺を通り抜けることを標す、大小さまざまな重要度の寺

森が最初に挙がります。紅河ハニ族棚田群(1111)の山頂の森が灌漑の命綱、景邁山古茶林(1665)の防護用の区画林と同じ構造です。

完全性と真正性 — 視覚的な環境が緩衝地帯を超えている

完全性

資産はスバックの仕組みの鍵となる属性と、それがバリの景観に与えた深い影響を完全に包含しているとされます。景観を形づくった過程はいまも生気に満ちて回復力があるとされ、農業区域はすべて地域共同体によって持続可能な形で耕され続け、給水は水の寺によって民主的に管理されているとされます。

どの構成部分も脅威の下にはないが、棚田の景観は、農業の慣行の変化や増大する観光の圧力といった社会的・経済的な変化の幅に対してきわめて脆弱である。 管理の仕組みは、伝統的な仕組みを持続させる支えと、農民が土地に留まることを可能にする便益を与える必要があるだろう。

「農民が土地に留まれるように」は、紅河ハニ族棚田群(1111)の完全性の弱点と同じ言い方です。

視覚的な環境が、緩衝地帯より広い

さらに、各遺跡の環境は脆弱で、とくに観光に結びついた開発の圧力の下にある。五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越えて広がっており、多くの場合、緩衝地帯をも越えている。いくつかの場合には、すでにいくらかの悪影響のある開発が起きてしまった。さらなる視覚的完全性の喪失を避けるために、遺跡のより広い文脈を守ることが不可欠である。

緩衝地帯が足りていないと明記されています。シンガポール植物園(1483)は「指定を緩衝地帯の全体に適用すれば強められる」でした。バリは「緩衝地帯をも越えている」です。

水の管理も、資産の視覚的な質を保つ決定的な要素とされます。

真正性

棚田の景観・森・水管理の構造・寺と祠の真正性は明らかであるとされます。

しかし、人びとと景観との全体の相互作用はきわめて脆弱であり、遺跡がなお霊の世界との調和した関係と古代の哲学的概念トリ・ヒタ・カラナを反映し続けるためには、管理の仕組みが積極的な支えを提供することが不可欠だろう。 村の建物は、材料と構法の点である程度その真正性を失っている——とはいえ、それらはいまも機能的に景観と結びついている。

紅河ハニ族棚田群(1111)の真正性の弱点が「伝統的な家の材料が入手しにくい」でした。バリは「村の建物はある程度真正性を失っている」とさらに踏み込んで書かれています。

誰が守っているか — 州の条例と、スバックの慣習法

法の枠組み

層 中身
広い枠組み 2008年の州条例(推薦される遺跡の保全と空間計画のため)
固有の枠組み バリ州政府とバリの県(Regencies)との覚書による「バリ戦略区域の設定」。これが五つの遺跡の保全と空間計画を法的に成文化し、有形・無形の遺産と、遺跡境界内の農業・森林の生態系を含む
国の根拠 州条例は国法第26/2007号と国の政令第26/2008号に基づく(空間計画と、重要な文化的景観の保全のための国家戦略区域の設定に関するもの)

スバック自身の慣習法

ほとんどのスバックは「アウィグ・アウィグ(awig-awig)」と呼ばれる書かれた法典を持ち、スバックの成員の権利と責任を詳しく定めている。アウィグ・アウィグ、すなわち伝統的な慣習法は……(記述はここで続く)

「書かれた慣習法」という点が、この章のほかの資産と違います。

資産 慣習の形
紅河ハニ族棚田群1111 村ごとの慣習法と土司制度
ティムリチ・オヒンガ1450 長老が維持する規則とタブー
ロイ・マタ1280 タブーの禁止
ナン・マドール1503 憲法が認める慣習上の利益
バリのスバック1194 書かれた法典アウィグ・アウィグ

同じ「伝統的な管理」でも、口承のタブーから書かれた法典まで幅があります。

2級で押さえること

水が寺を通り抜けてから水田へ流れる——これが「寺が水を管理する」の具体。11世紀以来、水の寺の網が流域全体の規模で棚田の生態を管理してきた。バリに約1,200の水の共同体があり、一つの水源を50〜400人が管理。トリ・ヒタ・カラナ(霊・人・自然)は過去2,000年のバリとインドの文化交流から生まれた。基準(v)の「民主的で平等な仕組み」はケルソネソス1411 の「民主的な土地組織」と並べて読める(水と土地)。完全性に「五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越え、多くの場合緩衝地帯をも越えている」と明記され、すでにいくらかの悪影響のある開発が起きたとされる。真正性は村の建物が材料と構法の点である程度失われている(紅河の「材料が入手しにくい」より踏み込んだ書き方)。スバックは「アウィグ・アウィグ」という書かれた慣習法を持つ。

オリジナル確認問題

答えを選んでから、正解と解説を開きましょう。

確認1:バリのスバック・システムで、水と寺の関係についてUNESCO が書いていることは?

  1. 寺が水田の近くに建てられ、収穫を祈る場となっている
  2. 泉と運河からの水が寺を通り抜けて水田へ流れ出る
  3. 寺が水源の所有権を持ち、水の売買を管理している
  4. 泉と運河からの水が寺を通り抜けて水田へ流れ出るが、水の配分そのものは村の長が決めている
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正解:2.泉と運河からの水が寺を通り抜けて水田へ流れ出る

> 米は神の贈り物と見られ、スバックの仕組みは寺の文化の一部である。泉と運河からの水が寺を通り抜けて水田へ流れ出る。これが「寺が水を管理する」の具体です。11世紀以来、水の寺の網が流域全体の規模で棚田の生態を管理してきたとされ、バリには約1,200の水の共同体があり、一つの水源からの給水を50〜400人の農民が管理します。

確認2:バリのスバック・システムの完全性で、視覚的な環境について書かれていることは?

  1. 視覚的な環境は緩衝地帯の内側に収まっている
  2. 視覚的な環境についての記述は無い
  3. 五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越えて広がっているが、緩衝地帯の内側には収まっており、悪影響のある開発はまだどこにも起きていない
  4. 五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越えて広がり、多くの場合緩衝地帯をも越えており、すでにいくらかの悪影響のある開発が起きた
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正解:4.五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越えて広がり、多くの場合緩衝地帯をも越えており、すでにいくらかの悪影響のある開発が起きた

> 五つの遺跡の視覚的な環境は境界を越えて広がっており、多くの場合、緩衝地帯をも越えている。いくつかの場合には、すでにいくらかの悪影響のある開発が起きてしまった。さらなる視覚的完全性の喪失を避けるために、遺跡のより広い文脈を守ることが不可欠である。緩衝地帯が足りていないと明記されています。シンガポール植物園1483 は「指定を緩衝地帯の全体に適用すれば強められる」でした。

確認3:バリのスバックが持つ「アウィグ・アウィグ(awig-awig)」とは?

  1. スバックの成員の権利と責任を詳しく定めた、書かれた法典
  2. 水の寺で行われる儀礼の次第
  3. 一つの水源を共有する農民の集まりの名
  4. スバックの成員の権利と責任を詳しく定めた口承の規則で、長老が代々口伝えに受け継いできたもの
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正解:1.スバックの成員の権利と責任を詳しく定めた、書かれた法典

> ほとんどのスバックは「アウィグ・アウィグ(awig-awig)」と呼ばれる書かれた法典を持ち、スバックの成員の権利と責任を詳しく定めている。「書かれた慣習法」という点が、この章のほかの資産と違います。紅河1111 は村ごとの慣習法と土司制度、ティムリチ・オヒンガ1450 は長老が維持する規則とタブー、ロイ・マタ1280 はタブーの禁止、ナン・マドール1503 は憲法が認める慣習上の利益でした。

確認4:バリのスバック・システムの真正性で、村の建物について書かれていることは?

  1. 村の建物は真正性の対象から外されている
  2. 村の建物の真正性は完全に保たれている
  3. 材料と構法の点である程度その真正性を失っているが、いまも機能的に景観と結びついている
  4. 材料と構法の点である程度その真正性を失っており、すでに機能的な景観とのつながりも断たれている
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正解:3.材料と構法の点である程度その真正性を失っているが、いまも機能的に景観と結びついている

> 村の建物は、材料と構法の点である程度その真正性を失っている——とはいえ、それらはいまも機能的に景観と結びついている。紅河ハニ族棚田群1111 の真正性の弱点は「伝統的な家の材料が入手しにくい」でした。バリは「ある程度失っている」とさらに踏み込んで書かれています。棚田の景観・森・水管理の構造・寺と祠の真正性は明らかであるとされます。

参考資料

確認日:2026年10月26日。世界遺産ゼミは非公式の学習コンテンツです。確認問題は独自に作成しています。特定の試験回への対応は未確定です。

参照した公式教材の版: くわしく学ぶ世界遺産300 <第6版>

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