どこにあり、何が登録されたのか
中国・雲南省南部、紅河の南岸。哀牢山(アイラオ山)の急斜面を、棚田が谷底まで流れ落ちるように下っています。北西から移ってきたハニ族が、1,300年かけて密林を切り開いて作った灌漑棚田です。森の下端から谷底まで、ところによっては3,000枚の棚田が重なります。
登録されているのは棚田だけではありません。森・水・棚田・家の四つが組みになった仕組みが価値とされています。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| 山頂の森 | 雨を受けて水を蓄える。灌漑の命綱 |
| 水の道 | 幹線水路4本と支線392本、合わせて445.83km。村で共同して維持する |
| 棚田 | 1世帯が1〜2枚を耕す。主な作物は赤米 |
| 村 | 82の村。1村50〜100世帯。茅葺きの「きのこ型」の家 |
森は4種類に分けられています——古い「水源涵養林」、聖なる森、土留めの森、建材や食料や薪をとる村の森。聖なる森はいまも意味を持ち、村の上に村の神「アンマ」と土地を守る神「ミソン」の場所があります。
赤米はアイガモ・ニワトリ・豚・水牛・タニシが組み合わさった農法で作られます。アイガモが若い苗に施肥し、ニワトリと豚が育った株に施肥し、水牛が翌年の田を起こし、水中のタニシが害虫を食べます。UNESCO はこれを「人神合一の社会制度」と呼ばれる二重の相互依存に支えられた仕組みだと説明しています。
登録の範囲 — 本体より緩衝地帯のほうが広い
| 面積 | |
|---|---|
| 本体 | 16,603.22 ha |
| 緩衝地帯 | 29,501.01 ha |
緩衝地帯が本体の約1.8倍あります。緩衝地帯は遺産そのものではありません。ここでは分水嶺と見え方を守り、社会的・経済的な発展を調整する余地を持たせるために置かれています。
本体は3か所の棚田——バダ・ドゥオイシュ・ラオフーズイ——が、3つの流域(マリジャイ・ダワジェ・アメンコン-ゲタ)に分かれて入っています。地質が違うため傾斜も違い、バダは緩やか、ドゥオイシュは急、ラオフーズイは非常に急です。
2級は「棚田が登録されている」では足りません。どこまでが本体で、その外に何がどれだけ置かれているかまで読みます。
完全性 — 「脅威は無い」と書いたあとに、弱点が並ぶ
UNESCO は完全性について、境界が棚田の仕組み全体を見渡せる広さを持ち、森・水系・村・棚田という属性がどれも十分にそろっていて、鍵となる物理的な属性はどれも脅威を受けておらず、伝統的な農法はいま堅固でよく守られていると書いています。
ところが、同じ節に弱点が並びます。
| 弱点 | 中身 |
|---|---|
| 土砂崩れ | 棚田は平均25%の斜面に作られており、崩れやすい |
| 農家の生計 | 農林の仕組みが農家が住み続けられるだけの暮らしを与えられるかが全体として弱い |
| 赤米の価格 | 価格の変動に弱い(有機農産物として値を上げる方策はある) |
| 観光 | いまは悪影響は無いが、観光客が急増しており、施設の整備と観光の管理が課題だと認められている |
気候変動と干ばつには強いとされ、2005年の大干ばつで実証されたと書かれています。
「脅威を受けていない」と「弱点がある」は、同じ節に同時に書かれます。完全性は、いま欠けていないかを見る物差しで、将来の弱さを数えるものではないからです。ここが2級の読みどころです。
真正性 — 弱点は「材料が手に入らない」
真正性は保たれている、というのが UNESCO の判断です。景観の要素の伝統的な形、景観の機能・慣行・伝統的知識の継続、儀礼・信仰・習慣の継続、という点で維持されているとされています。
弱点は、はっきり一つ挙げられています。伝統的な家の材料です。
伝統的な家は、版築・日干しレンガ・石と土の壁に、茅を葺いた背の高い寄棟屋根。この形が「きのこ型」と呼ばれます。村の家の少なくとも半分が、主にまたは部分的に伝統的な材料です。
その材料が入手しにくいと言われています。日干しレンガの代わりにコンクリートブロック、茅の代わりに瓦が使われ始め、色も形も変わるため、景観の中の村の姿に目立つ影響が出ています。近年は外から来た建築様式も村に入り、負の影響が出ているとされます。
伝統的な家を保つことと、いまの暮らしに合う室内を求めることの間に、対立が起こりうると UNESCO 自身が書いています。
伝統的な農法も、農家の期待が高まれば谷から離れていきかねず、全体の戦略が無いままの観光の影響にも弱いとされています。
誰が守っているか — 国の法・県の条例・村の慣習法
法の保護は三重
| 層 | 中身 |
|---|---|
| 国 | 国務院が指定する国家級重点保護地。さらに文化部の「世界文化遺産保護管理弁法」が中国の登録資産すべてに及ぶ |
| 県 | 2008年に元陽県人民政府が保護史跡に指定。県が「村と住居の保護管理弁法」と「伝統的ハニ住居の保存・改修・環境整備の指針」を出した |
| 村 | 村ごとに、自然資源の管理と争いの解決のための慣習法 |
県の2つの文書は、村の中の開発と建設を抑えるための技術基準です。棚田・森・灌漑・伝統的な村と住居・地域の伝統文化を対象にします。指針は清華大学建築学院と組んで作られ、村や地区ごとに建物の特徴が違うことを認めるべきだと強調しています。
村の自治と土司制度
村はそれぞれ村民委員会の下にあります。哀牢山の棚田文化では土司(在地首長)制度がいまも大きな部分を占め、元陽県の猛弄(モンノン)政府と宗瓦寨(ゾンワジャイ)政府の2つの土司政府が計画区域に関わっています。
登録の時点で「まだ無かった」もの
管理計画は書かれていましたが、法的な承認を経ていませんでした。UNESCO の記述は「法的承認のあとに、保護・保存・管理のための法的・技術的文書として受け入れられる」という書き方です。計画は2011〜2030年で、短期(2011〜2012)・中期(2013〜2020)・長期(2021〜2030)に分かれます。実施は「ハニ棚田文化遺産保護発展管理委員会」が担い、2007年に12人で設置された紅河州ハニ棚田管理局が事務を執ります。
さらに UNESCO は、持続可能なエコツーリズム戦略と解説戦略が管理計画を支えることが望ましいと書いています。「望ましい」は、まだ無いという意味です。観光の管理と開発の個別計画は「2013年末までに完成する見込み」、新街鎮の大きな情報センターは「2020年までに完成」と書かれています。
管理の仕組みは、すでにあるものと、これから作るものが混ざっています。どちらなのかを読み分けるのが2級です。
2級で押さえること
完全性の節は「脅威は無い」と「弱点がある」を同時に書く。真正性の弱点は伝統的な家の材料(コンクリートブロックと瓦への置き換え)。保護は国・県・村の三重で、村の慣習法と土司制度がいまも効いている。緩衝地帯(29,501.01 ha)が本体(16,603.22 ha)の約1.8倍。管理計画は登録の時点で法的承認を経ていなかった。
オリジナル確認問題
答えを選んでから、正解と解説を開きましょう。
確認1:紅河ハニ族棚田群の完全性について、UNESCO の記述に合うものは?
- 観光による悪影響がすでに出ているため、完全性は部分的に失われている
- 鍵となる物理的な属性は脅威を受けていないとされ、同じ節に土砂崩れや農家の生計などの弱点も並べて書かれている
- 棚田の枚数が減っているため、完全性は将来の課題として扱われている
- 山頂の森が4種類に分けられているため、どの森が価値を担うのかが定まらず、完全性の判断そのものが保留されたまま登録されている
正解と解説を開く
正解:2.鍵となる物理的な属性は脅威を受けていないとされ、同じ節に土砂崩れや農家の生計などの弱点も並べて書かれている
UNESCO は「鍵となる物理的な属性はどれも脅威を受けておらず、伝統的な農法はいま堅固でよく守られている」と書き、同じ節に土砂崩れ(平均25%の斜面)・農家の生計・赤米の価格変動・観光の急増を弱点として並べています。観光は「いまは悪影響は無い」とされており、出ているとは書かれていません。棚田の枚数が減っているという記述も、判断の保留という記述もありません。
確認2:紅河ハニ族棚田群の真正性について、UNESCO が弱点として挙げているものは?
- 棚田の灌漑水路が近代的な工法で作り直されたこと
- 赤米の品種が収量の高いものに入れ替わったこと
- 山頂の森が伐採され、水源涵養の機能が失われたため、棚田の灌漑そのものが近代的な設備に頼るようになったこと
- 伝統的な家の材料が入手しにくく、コンクリートブロックや瓦への置き換えが村の姿に影響していること
正解と解説を開く
正解:4.伝統的な家の材料が入手しにくく、コンクリートブロックや瓦への置き換えが村の姿に影響していること
真正性は保たれているとされつつ、弱点は「伝統的な家の材料」とはっきり書かれています。日干しレンガの代わりにコンクリートブロック、茅の代わりに瓦が使われ始め、色も形も変わるため景観の中の村の姿に目立つ影響が出ているとされます。水路(幹線4本・支線392本・445.83km)は村で共同して維持されており、森は灌漑の命綱として機能していると書かれています。
確認3:紅河ハニ族棚田群の保護管理について、登録の時点での状態に合うものは?
- 管理計画は書かれていたが法的な承認を経ておらず、持続可能なエコツーリズム戦略は「望ましい」とされていた
- 管理計画と観光戦略の両方が法的に承認され、運用に入っていた
- 管理計画が無く、村の慣習法だけが保護の根拠だった
- 国の法と県の条例が未整備で、保護は清華大学建築学院が作った指針のみに頼っていたため、開発の抑制が効いていなかった
正解と解説を開く
正解:1.管理計画は書かれていたが法的な承認を経ておらず、持続可能なエコツーリズム戦略は「望ましい」とされていた
UNESCO の記述は「法的承認のあとに、保護・保存・管理のための法的・技術的文書として受け入れられる」という書き方で、登録の時点では承認を経ていません。エコツーリズム戦略と解説戦略は「望ましい」=まだ無いという意味です。一方で法の保護は国(国務院の国家級重点保護地・文化部の弁法)・県(2008年の指定と2つの条例)・村(慣習法)の三重にそろっています。
確認4:紅河ハニ族棚田群の登録範囲について正しいものは?
- 本体と緩衝地帯がほぼ同じ広さである
- 緩衝地帯は設定されていない
- 緩衝地帯(29,501.01 ha)が本体(16,603.22 ha)より広い
- 本体が緩衝地帯の約1.8倍の広さで、緩衝地帯は分水嶺を含まず見え方の保護だけを担っている
正解と解説を開く
正解:3.緩衝地帯(29,501.01 ha)が本体(16,603.22 ha)より広い
本体16,603.22 ha、緩衝地帯29,501.01 haで、緩衝地帯が本体の約1.8倍あります。緩衝地帯は分水嶺と見え方を守り、社会的・経済的な発展を調整する余地を持たせるために置かれています。緩衝地帯の有無も広さも、遺産ごとにまったく違います。「必ずある」「本体より狭い」と覚えると間違えます。
参考資料
確認日:2026年10月26日。世界遺産ゼミは非公式の学習コンテンツです。確認問題は独自に作成しています。特定の試験回への対応は未確定です。