基本を学ぶ
世界遺産は、ある日いきなり登録されるわけではありません。その前に「暫定リスト」という一覧に載っている必要があります。
暫定リストとは
世界遺産条約を結んだ国は、将来この一覧に載せたいと考えているものを、あらかじめユネスコへ提出します。これが暫定リスト(暫定一覧表)です。ここに載っていないものは、推薦書を出して審査を受けることができません。世界遺産になるには、まずこの一覧に入るところから始まります。
日本の暫定一覧表(2026年10月1日時点)
文化庁によると、日本の暫定一覧表には文化遺産3件が載っています。古都鎌倉の寺院・寺社ほか(神奈川県・平成4年記載)、彦根城(滋賀県・平成4年記載)、平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-(拡張)(岩手県・平成24年記載)。ユネスコ側の一覧も同じ3件です。
順番待ちは長い
鎌倉と彦根城は平成4年=1992年から載っています。日本が世界遺産条約を結んだのも1992年ですから、最初から載りつづけていることになります。30年以上そのままです。載ったからといって登録されるとは限らず、推薦の順番や準備が整うのを待ちます。
「推薦中」はまた別
暫定一覧表に載っていることと、いま推薦書を出して審査を受けていることは別です。文化庁の「世界文化遺産に推薦中の文化遺産」は、2026年10月1日時点で「現在推薦中の物件はありません」となっています。載っている=審査中、ではありません。
拡張という道もある
3件目の平泉は(拡張)と付いています。平泉はすでに2011年に世界遺産として登録されていますが、登録の範囲を広げるために、あらためて暫定一覧表へ載せているということです。新しく登録するだけでなく、すでにある遺産の範囲を広げるのも、同じ手順を通ります。
覚えておきたいこと
- 暫定一覧表に載っていないと推薦書を出せない
- 日本は文化遺産3件(鎌倉・彦根城・平泉の拡張)
- 載っていることと推薦中であることは別
2級
2級向けに理解を深める
この層は作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) から書いている。作業指針は改訂され、段落の番号も中身も変わる。教材が基準にするのは第5版・第6版(2024年の世界遺産委員会まで反映)で、現行の作業指針とは別。適用時点が確かめられていないものは、その旨を書いてある。
暫定一覧表とは何か(第62項)
暫定一覧表とは、各締約国が自国の領域内にある資産のうち、世界遺産リストへの推薦にふさわしいと考えるものの目録である。
したがって締約国は、顕著な普遍的価値をもつ可能性があると考え、かつ今後数年のうちに推薦する意図のある資産の詳細を、暫定一覧表に含めるべきである。
二つの条件が書かれています。
| 価値の可能性 | 顕著な普遍的価値をもつ可能性があると考えている |
|---|---|
| 推薦の意図 | 今後数年のうちに推薦するつもりがある |
「価値がありそうなものを全部並べる台帳」ではありません。推薦する意図があるものを載せます。
誰と作るか(第64項)
ここが2級で新しいところです。3級では「国が作る」まででした。
締約国は、遺跡の管理者、地方および地域の行政、地域社会、先住民族、NGO その他の関心をもつ主体と協力者を含む、幅広い関係者と権利保持者の、完全で実効的かつジェンダーに配慮した参加をもって暫定一覧表を準備することが奨励される。
さらに、
先住民族の土地・領域・資源に影響する遺跡の場合、締約国は、暫定一覧表に含める前に、関係する先住民族とその代表機関を通じて誠実に協議・協力し、自由意思による、事前の、情報に基づく同意を得なければならない。
「奨励される」と「しなければならない」が書き分けられています。
| 強さ | |
|---|---|
| 幅広い関係者の参加 | 奨励される(encouraged) |
| 先住民族の同意 | しなければならない(shall) |
一次資料の言葉の強さを読み分けるのが2級です。
いつ見直すか(第65項)
締約国は、少なくとも10年ごとに暫定一覧表を再検討し、再提出することが奨励される。
一度載せたら終わりではありません。
載せたまま推薦しない資産が残り続けると、暫定一覧表が「推薦する意図のあるものの目録」でなくなります。
何を書くか(第66項)
締約国は、英語または仏語で、附属資料2A(国を越える・国境を越える将来の推薦には附属資料2B)の標準様式を用いて暫定一覧表を提出するよう要請される。
書く内容は四つです。
| 名称 | 遺跡の名前 |
|---|---|
| 地理的位置 | どこにあるか |
| 概要 | 遺跡の簡潔な説明 |
| 価値の説明 | 顕著な普遍的価値をもつ可能性の正当化 |
この段階で「顕著な普遍的価値の可能性」を書きます。推薦書で初めて書くのではありません。
グローバル・ストラテジーとのつながり(第55項)
代表的でバランスのとれた信頼性のある世界遺産リストのためのグローバル・ストラテジーは、世界遺産リストの大きな空白を見つけて埋めるために作られている。
そのために、より多くの国が締約国になること、第62項に定める暫定一覧表を作ること、そして推薦を行うことを促している。
採択は1994年・第18回世界遺産委員会(プーケット)。
暫定一覧表は、グローバル・ストラテジーの道具でもあります。空白を埋めるには、まずどこに何があるかが分からなければなりません。
諮問機関の主題別研究(第147項)も、締約国が提出した暫定一覧表の検討に基づくべきだとされています。暫定一覧表 → 主題別研究 → 空白の把握という流れです。
事前評価は移行期間の中。第65項は版で数字が違う
事前評価(Preliminary Assessment)の条文は、[登録までの流れ](/sekai-isan-zemi/learn/toroku-made-no-nagare/#wh-g2)に書いたとおりWHC.21/01(2021-07-31)で入りました。
ただし、いつから必須かは別です。決定44 COM 12 は、2027年までを移行期間とし、事前評価を経た推薦だけを審査するのは2028年以降と定めています。第6版が基準とする2024年の時点では、事前評価は任意です。
- 第63項 … 推薦書は、暫定一覧表に記載済みで、かつ事前評価を受けていなければ完全とみなされない
(条文は WHC.21/01 から WHC.25/01 まで同じ)
第65項 — 同じ手続きでも、版で数字が違う
対象の手続き … 暫定一覧表を出してから、事前評価の請求を出すまでに空ける期間
| 版 | 空ける期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| WHC.19/01(2019-07-10) | いかなる推薦の少なくとも1年前 | 事前評価の制度がまだ無い |
| WHC.21/01・WHC.23/01・WHC.24/01(2024-07-31) | 事前評価の請求の少なくとも1年前 | |
| WHC.25/01(2025-07-16) | 事前評価の請求の少なくとも2週間前 | 決定47 COM 8(2025)が短縮 |
この教材の基準時点は第6版=2024年の世界遺産委員会までで、対応する版は WHC.24/01。そこでは「1年前」です。現行版の「2週間前」をそのまま覚えると、公式テキストと食い違います。
数字を覚えるときは、どの手続きの、どの版の数字かを必ず添えます。
2級で押さえること
- 暫定一覧表は「顕著な普遍的価値をもつ可能性があり、今後数年のうちに推薦する意図がある」資産の目録(第62項)
- 「価値がありそうなものを全部並べる台帳」ではない
- 作るときは幅広い関係者と権利保持者の、完全で実効的かつジェンダーに配慮した参加が奨励される(第64項)
- 先住民族の土地・領域・資源に影響する場合は、含める前に自由意思による事前の情報に基づく同意を得なければならない
- 「奨励される」と「しなければならない」が書き分けられている。言葉の強さを読み分ける
- 少なくとも10年ごとに再検討・再提出が奨励される(第65項)
- 英語または仏語で、名称・地理的位置・概要・顕著な普遍的価値の可能性の正当化を書く(第66項)
- 価値の可能性はこの段階で書く。推薦書で初めて書くのではない
- グローバル・ストラテジー(1994年・第18回委員会)はリストの空白を見つけて埋めるもの。暫定一覧表はその道具(第55項)
- 事前評価(第63項)の条文は WHC.21/01(2021-07-31)から。ただし審査で必須になるのは2028年以降(決定44 COM 12)。2024年は移行期間の中
- 第65項「暫定一覧表から事前評価の請求までに空ける期間」は版で違う。WHC.24/01 は1年前、WHC.25/01 は2週間前(決定47 COM 8)。数字は手続きと版を添えて覚える
この記事の出どころ
- UNESCO, Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention, WHC.25/01(2025-07-16) https://whc.unesco.org/document/222376(2026-10-06 取得)
級別の確認問題
4級 確認問題
答えを選んでから、正解と解説を開きましょう。
確認1:暫定一覧表(暫定リスト)の役割として正しいものは?
- ここに載った時点で世界遺産として登録される
- ここに載っていないと、推薦書を出して審査を受けられない
- 危機遺産になりそうな遺産をあらかじめ集めておく一覧
- 登録を取り消された遺産を記録しておく一覧
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正解:2.ここに載っていないと、推薦書を出して審査を受けられない
条約を結んだ国が、将来登録したいものをあらかじめ提出する一覧です。推薦書を出して審査を受けるには、事前にここへ記載されている必要があります。
確認2:2026年10月1日時点で日本の暫定一覧表に載っている資産の組み合わせは?
- 古都鎌倉・彦根城・平泉(拡張)
- 彦根城・佐渡島の金山・飛鳥藤原
- 古都鎌倉・富士山・平泉(拡張)
- 彦根城・古都鎌倉・石見銀山
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正解:1.古都鎌倉・彦根城・平泉(拡張)
文化庁によると文化遺産3件です。佐渡島の金山・飛鳥藤原・富士山・石見銀山はすでに世界遺産として登録されています。
確認3:日本の暫定一覧表に載っている古都鎌倉と彦根城についての説明として正しいものは?
- 2012年に新しく載せられ、10年ほど順番を待っている状態である
- 一度登録されたあと、範囲を広げるために載せ直されたものである
- すでに推薦書が出されていて、いま審査を受けている最中である
- 日本が世界遺産条約を結んだ1992年から載り続け、30年以上そのままである
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正解:4.日本が世界遺産条約を結んだ1992年から載り続け、30年以上そのままである
平成4年=1992年から載っています。載ったからといって登録されるとは限らず、推薦の順番や準備が整うのを待ちます。
確認4:日本の暫定一覧表にある「平泉(拡張)」が意味することは?
- 平泉はまだ世界遺産に登録されておらず、候補のままである
- 平泉が危機遺産の一覧に移された
- すでに登録されている平泉の、登録範囲を広げようとしている
- 平泉の登録が取り消される見込みである
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正解:3.すでに登録されている平泉の、登録範囲を広げようとしている
平泉は2011年に登録済みです。範囲を広げるために、あらためて暫定一覧表へ記載されています(岩手県・平成24年記載)。新規登録だけでなく範囲の拡張も同じ手順を通ります。
2級 確認問題
確認1:暫定一覧表に含めるべき資産として、作業指針が示している条件は?
- 国内で文化財に指定されているもの
- 顕著な普遍的価値をもつ可能性があり、今後数年のうちに推薦する意図があるもの
- 顕著な普遍的価値が確定しているもの
- 諮問機関から助言を受けたもの
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正解:2.顕著な普遍的価値をもつ可能性があり、今後数年のうちに推薦する意図があるもの
条件は二つです。価値の可能性があること、そして今後数年のうちに推薦する意図があること。「価値がありそうなものを全部並べる台帳」ではありません。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第62項)
確認2:暫定一覧表の準備について、作業指針が「しなければならない」としていることは?
- 先住民族の土地・領域・資源に影響する遺跡の場合、含める前に自由意思による事前の情報に基づく同意を得ること
- 地域社会への説明会を開くこと
- 遺跡の管理者と地方行政を必ず参加させること
- NGO の意見を聴取すること
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正解:1.先住民族の土地・領域・資源に影響する遺跡の場合、含める前に自由意思による事前の情報に基づく同意を得ること
「奨励される」と「しなければならない」が書き分けられています。幅広い関係者と権利保持者の、完全で実効的かつジェンダーに配慮した参加は奨励される(encouraged)。先住民族の同意はしなければならない(shall)。一次資料の言葉の強さを読み分けるのが2級です。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第64項)
確認3:暫定一覧表の見直しについて、作業指針が奨励している頻度は?
- 少なくとも5年ごとに再検討する
- 委員会から要請があったときに見直す
- 少なくとも10年ごとに再検討し、再提出する
- 推薦のたびに見直す
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正解:3.少なくとも10年ごとに再検討し、再提出する
一度載せたら終わりではありません。載せたまま推薦しない資産が残り続けると、暫定一覧表が「推薦する意図のあるものの目録」でなくなります。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第65項)
確認4:暫定一覧表に書く内容として、作業指針が挙げていないものは?
- 遺跡の簡潔な説明
- 保存管理計画の策定状況
- 遺跡の名称
- 遺跡の地理的位置
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正解:2.保存管理計画の策定状況
書くのは名称・地理的位置・概要・顕著な普遍的価値をもつ可能性の正当化の四つで、英語または仏語、標準様式(附属資料2A、国を越える推薦は2B)を用います。価値の可能性はこの段階で書きます。推薦書で初めて書くのではありません。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第66項)
確認5:グローバル・ストラテジーと暫定一覧表の関係について正しいものは?
- グローバル・ストラテジーは自然遺産だけを対象としている
- グローバル・ストラテジーは暫定一覧表の廃止を目指している
- 暫定一覧表はグローバル・ストラテジーとは別の制度である
- リストの大きな空白を埋めるため、より多くの国が締約国になり暫定一覧表を作ることを促している
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正解:4.リストの大きな空白を埋めるため、より多くの国が締約国になり暫定一覧表を作ることを促している
採択は1994年・第18回世界遺産委員会(プーケット)。空白を埋めるには、まずどこに何があるかが分からなければなりません。諮問機関の主題別研究(第147項)も、締約国が提出した暫定一覧表の検討に基づくべきだとされており、暫定一覧表 → 主題別研究 → 空白の把握という流れになっています。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第55項)
参考資料
- 文化庁 日本の暫定一覧表記載遺産(2026-10-01 取得)
- 文化庁 世界文化遺産に推薦中の文化遺産(2026-10-01 取得)
- UNESCO Tentative Lists / Japan(2026-10-01 取得)
- きほんを学ぶ世界遺産100 第5版 目次(出版社公開・2026-10-01 取得)
確認日:2026年10月2日。世界遺産ゼミは非公式の学習コンテンツです。確認問題は独自に作成しています。特定の試験回への対応は未確定です。