世界遺産に登録されるまでの流れ

基本を学ぶ

ある日とつぜん決まるわけではない

世界遺産は、ユネスコが世界中から勝手に選ぶものではありません。その国が自分で推薦するところから始まります。決まるまでには、決まった順番があります。

4つのステップ

1. 暫定リストにのせる

まず、その国が「これを将来推薦したい」という候補を一覧にまとめます。これを暫定リスト(暫定一覧表)といいます。暫定リストにのっていないものは推薦できません。

2. 推薦する

暫定リストの中から、その国が推薦書を作ってユネスコへ提出します。推薦できる数にはかぎりがあるため、国内で順番を決めて出していきます。

3. 専門機関が調べる

提出された推薦は、専門の機関が現地を調べて評価します。担当は遺産の種類で分かれています。

  • ICOMOS(イコモス) … 文化遺産を担当
  • IUCN(アイユーシーエヌ) … 自然遺産を担当

複合遺産は、両方の機関が調べます。

4. 世界遺産委員会が決める

専門機関の評価をもとに、世界遺産委員会が審議して決定します。委員会は年に1回開かれます。

結果は「登録」だけではありません。「もう少し情報がほしい」「今回は見送り」といった判断になることもあります。一度で決まらず、何年もかけて登録される遺産もめずらしくありません。

覚えておきたいこと

順番は「暫定リスト → 推薦 → 専門機関の調査 → 委員会で決定」。そして文化は ICOMOS、自然は IUCN。この2つを押さえておけば十分です。

3級 3級向けに理解を深める

4級では4つのステップを順に見ました。3級では、それぞれの段階を誰が担っているのかを整理します。

決める人と調べる人は別

推薦された遺産を調べるのは専門機関、登録するかどうかを決めるのは世界遺産委員会です。調べる役と決める役が分かれていることが、この仕組みの要になっています。

文化はICOMOS、自然はIUCN

文化遺産の調査は ICOMOS(国際記念物遺跡会議)、自然遺産の調査は IUCN(国際自然保護連合)が担当します。複合遺産は両方が調べます。登録基準が文化と自然に分かれていることと、調べる機関が分かれていることは対応しています。

暫定一覧表に載っていないと始まらない

推薦できるのは、その国の暫定一覧表に載っているものだけです。載せること自体は推薦ではありません。順番待ちの一覧に名前を置く段階です。

登録されたあとも続く

登録は終点ではありません。保全の状況が報告され、守りきれないおそれがあれば危機遺産リストに載り、価値が失われたと判断されれば登録を取り消されることもあります。範囲が広げられることもあります(ローマの歴史地区)。

3級で押さえること

  • 調べる役(専門機関)と決める役(委員会)は別
  • 文化はICOMOS、自然はIUCN
  • 登録後も報告・危機遺産・取り消しが続く

2級 2級向けに理解を深める

この層は作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) から書いている。作業指針は改訂され、段落の番号も中身も変わる。教材が基準にするのは第5版・第6版(2024年の世界遺産委員会まで反映)で、現行の作業指針とは別。適用時点が確かめられていないものは、その旨を書いてある。

審議の結果は四つに分かれる

3級では「委員会が審議して登録が決まる」まででした。2級では、登録されなかったときに何が起きるかまで押さえます。

結果作業指針次にできること
登録——
情報照会第159項翌年の委員会に再提出できる
記載延期第160項2月1日までに再提出。現地調査を含む1年半の評価サイクルで再評価
不登録第158項例外的な状況を除き再提出できない

似ているようで、手続きがまるで違います。

情報照会(第159項)— 現地調査は伴わない

委員会が追加情報のために締約国へ差し戻すことを決めた推薦は、翌年の委員会の会期に再提出して審議を受けられる。

情報照会とは、求められる追加情報が、推薦資産の顕著な普遍的価値を決定するのに必要であることを意味する。

ここが大事です。

情報照会の手続きは、諮問機関による現地への調査を伴わない。また、基準の変更も、当初の推薦書で提案されたものからの区域・構成資産の大幅な変更も伴ってはならない。

追加情報を出すだけ。中身を作り替えるものではありません。

記載延期(第160項)— 作り直すための時間

委員会は、より深い評価や研究、または締約国による大幅な改訂のために、推薦を延期することを決定できる。

再提出は2月1日までに事務局へ。そして、

これらの推薦は、関係する諮問機関によって、現地調査を含む1年半の完全な評価サイクルのあいだに再評価(改めて評価)される。

情報照会は「足りない情報を出す」、記載延期は「作り直して出し直す」です。

不登録(第158項)— 原則として再提出できない

委員会が、ある資産を世界遺産リストに記載すべきでないと決定した場合、その推薦は、例外的な状況を除いて、再び委員会へ提出することはできない。

例外的な状況として挙げられているもの。

  • 新しい発見
  • 資産についての新しい科学的情報
  • 当初の推薦に示されなかった異なる基準

これらの場合には、新しい推薦書を提出しなければならない。

事前評価と件数の上限は、いつから効いているか

作業指針は改訂されます。同じ段落番号でも中身が変わります。そして「条文に書かれていること」と「いつから効いているか」は別です。ここは、版と委員会の決定の両方をさかのぼって確かめました(2026-10-07)。

推薦の件数(第61項)— 移行期間はない

定めいつから根拠
年間上限35件2018年2月2日からWHC.19/01 第61項に「As from 2 February 2018」と明記
前回に情報照会・記載延期なら2件2023年(決定45 COM 12)WHC.21/01 は「1国あたり年1件」だけ

どちらも移行期間のような条件がなく、第6版が基準とする2024年の時点で効いています。

事前評価(第63項・第122項)— 移行期間の中にある

条文は WHC.21/01(2021-07-31)で入りました。第122項には「推薦しうるすべての資産にとって必須の机上の手続き」とあります。

しかし、いつから必須かは条文ではなく委員会の決定で決まっています。

時点何が決まったか
2021年決定44 COM 12 が制度を導入。Annex 5 は2022年2月2日施行
2023年9月15日任意の事前評価請求の最初の提出期限=移行期間の始まり
2027年移行期間の終わり
2028年以降事前評価を経た推薦だけを委員会が審査する(=必須)

第6版が基準とする2024年の時点は、移行期間の中です。条文に「必須」とあっても、その年に出されたすべての推薦に求められていたわけではありません。2024年の決定46 COM 8 は、2023年9月15日までに届いた請求に留意しただけで、あわせて上流プロセスを経た資産は事前評価の要件を適用しないと第121項を改めています。

条文の文言と、効き始める時点は、別々に覚えます。

2級で押さえること

  • 審議の結果は四つ(登録/情報照会/記載延期/不登録)
  • 情報照会(第159項)… 翌年に再提出できる。現地調査は伴わない。基準の変更も区域の大幅変更も伴わない
  • 記載延期(第160項)… 2月1日までに再提出。現地調査を含む1年半の評価サイクルで再評価
  • 不登録(第158項)… 例外的な状況を除き再提出できない。例外は新発見・新しい科学的情報・異なる基準
  • 情報照会は「足りない情報を出す」、記載延期は「作り直して出し直す」
  • 年間上限35件は2018年2月2日から効いている。事前評価は条文こそ WHC.21/01(2021-07-31)に入ったが、審査で必須になるのは2028年以降(決定44 COM 12)。第6版が基準とする2024年は移行期間の中で、任意

この記事の出どころ

  • UNESCO, Operational Guidelines for the Implementation of the World Heritage Convention, WHC.25/01(2025-07-16) https://whc.unesco.org/document/222376(2026-10-06 取得)

級別の確認問題

3級 確認問題

確認1:世界遺産の登録を決める主体と、推薦された遺産を調べる主体の関係として正しいものは?

  1. 調べるのは専門機関、決めるのは世界遺産委員会で、役割が分かれている
  2. 世界遺産委員会が調査から決定まで一手に行う
  3. 推薦した国が自ら調査し、結果を委員会へ報告する
  4. UNESCOの事務局が自ら調査を行い、そのまま登録するかどうかも決める
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正解:1.調べるのは専門機関、決めるのは世界遺産委員会で、役割が分かれている

調べる役と決める役が分かれていることが、この仕組みの要になっています。

確認2:複合遺産として推薦された遺産の調査についての説明として正しいものは?

  1. 複合遺産は専門機関の調査を受けず、委員会が直接判断する
  2. 文化と自然の両方の側から、ICOMOSとIUCNの両方が関わる
  3. 文化の側だけをICOMOSが調べ、自然の側は調べない
  4. ICCROMが文化と自然の両方をまとめて調べる
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正解:2.文化と自然の両方の側から、ICOMOSとIUCNの両方が関わる

文化遺産はICOMOS、自然遺産はIUCNが調査します。複合遺産は両方が関わります。

確認3:暫定一覧表に載せることと推薦することの関係として正しいものは?

  1. 暫定一覧表に載せた時点で、自動的に推薦したことになり審査が始まる
  2. 推薦してから暫定一覧表に載せる
  3. 載せただけでは推薦にならず、そこから推薦書を出して初めて審査が始まる
  4. 暫定一覧表に載せずに推薦することもできる
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正解:3.載せただけでは推薦にならず、そこから推薦書を出して初めて審査が始まる

推薦できるのは暫定一覧表に載っているものだけです。載せること自体は順番待ちの段階です。

確認4:世界遺産に登録された後に起こりうることとして正しいものは?

  1. 登録後は内容が一切変更されない
  2. 取り消される仕組みは存在しない
  3. 登録の範囲は登録したときのまま、あとから変えられることはない
  4. 危機遺産リストへの登録や、登録範囲の変更、登録の取り消しがある
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正解:4.危機遺産リストへの登録や、登録範囲の変更、登録の取り消しがある

ローマの歴史地区は1990年に範囲が広げられました。守りきれないおそれがあれば危機遺産リストに載ります。

2級 確認問題

確認1:現行の作業指針(WHC.25/01・2025-07-16 第63項)で、推薦書が完全とみなされるために必要とされていることは?

  1. 緩衝地帯が画定されていること
  2. 推薦資産が暫定一覧表に既に記載され、かつ事前評価を受けていること
  3. 推薦資産が暫定一覧表に記載されてから5年以上経過していること
  4. 諮問機関の現地調査を事前に受けていること
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正解:2.推薦資産が暫定一覧表に既に記載され、かつ事前評価を受けていること

第63項。事前評価(Preliminary Assessment)が条件に入っています。暫定一覧表への記載だけでは足りません。 ただし「条文に書かれていること」と「いつから全ての推薦に必須か」は別です。この文言は WHC.21/01(2021-07-31)で入りました。一方、決定44 COM 12 は移行期間を2023年9月15日の任意の請求から始め、2027年に終えるとし、事前評価を経た推薦だけを審査するのは2028年以降としています。第6版が基準とする2024年の時点は移行期間の中で、事前評価は任意でした。

確認2:現行の作業指針(WHC.25/01・2025-07-16 第61項)で、世界遺産委員会が審査する推薦の件数について定められている仕組みは?

  1. 1国あたり年1件(前回に情報照会または記載延期となったものがあれば2件)、全体の年間上限は35件
  2. 1国あたり件数の制限はなく、全体の年間上限のみ45件
  3. 1国あたり年1件、全体の上限は21件
  4. 1国あたり年2件、全体の上限は設けない
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正解:1.1国あたり年1件(前回に情報照会または記載延期となったものがあれば2件)、全体の年間上限は35件

第61項。全体の上限35件には、前回の会期で記載延期・情報照会となった推薦、範囲の拡張、国境を越える推薦と国を越える連続推薦も含まれます。上限を超える場合は、登録資産を持たない締約国の推薦などの優先順位が適用されます。 上限35件は2018年2月2日から(WHC.19/01 第61項に「As from 2 February 2018」)。「前回に情報照会または記載延期となったものがあれば2件」は決定45 COM 12(2023)で加わりました。どちらも移行期間のような条件はなく、第6版が基準とする2024年の時点で効いています。

確認3:委員会の審議結果のうち「情報照会」の説明として正しいものは?

  1. 諮問機関の現地調査をともない、1年半の評価サイクルで再評価される
  2. 例外的な状況を除き、同じ推薦を再び提出できない
  3. 追加情報を求めて締約国に差し戻すもので、翌年の委員会に再提出できる
  4. 推薦資産の区域や構成資産を大幅に変更して再提出するもの
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正解:3.追加情報を求めて締約国に差し戻すもので、翌年の委員会に再提出できる

第159項。現地調査は伴わず、基準の変更も区域・構成資産の大幅な変更も伴いません。現地調査をともなう1年半の再評価は記載延期(第160項)、再提出できないのは不登録(第158項)です。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第159項)

確認4:現行の作業指針(WHC.25/01・2025-07-16 第160項)で、「記載延期」となった推薦を再提出する場合について正しいものは?

  1. 翌年の委員会に自動的に再付議される
  2. 2月1日までに事務局に提出し、現地調査を含む1年半の評価サイクルで再評価される
  3. 情報照会と同じ手続きで、現地調査は行われない
  4. 新しい推薦書として改めて暫定一覧表に記載し直す必要がある
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正解:2.2月1日までに事務局に提出し、現地調査を含む1年半の評価サイクルで再評価される

第160項。より深い評価や研究、または締約国による大幅な改訂のために延期されます。 この再提出の手続き(2月1日・現地調査を含む1年半の評価サイクル)は、事前評価とは別に成り立ちます。条文には「再提出は原則として事前評価の対象にならない(委員会が別に決めない限り)」とありますが、事前評価そのものが決定44 COM 12 の移行期間の中にあり、審査で必須になるのは2028年以降です。第6版が基準とする2024年の時点では任意でした。

確認5:委員会が「不登録」を決定した推薦について、作業指針が定めていることは?

  1. 3年経過すれば同じ推薦書で再提出できる
  2. 暫定一覧表から削除される
  3. 諮問機関の助言を得れば翌年再提出できる
  4. 例外的な状況を除き再提出できず、その場合は新しい推薦書を提出する
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正解:4.例外的な状況を除き再提出できず、その場合は新しい推薦書を提出する

第158項。例外的な状況には新しい発見、資産についての新しい科学的情報、当初の推薦に示されなかった異なる基準が含まれます。(作業指針 WHC.25/01(2025-07-16) 第158項)

読み終えたら、同じ級のクイズで確認してみましょう。