基本を学ぶ
海の話と陸の話が一続きになっている遺産です。つながりを追うと登録理由がつかめます。
基本データ
日本・北海道の自然遺産。2005年に登録され、登録基準は(ix)(x)です。オホーツク海へ突き出した知床半島と、その周りの海が範囲に含まれます。
流氷から始まる
北半球でもっとも低い緯度で海が凍る場所です。流氷ができることで栄養に富んだ水が生まれ、春には植物プランクトンが大量に増えます。海の豊かさはここから始まります。
海から山へ
海で育ったサケなどが川をのぼり、ヒグマやシマフクロウの食べものになります。海の恵みが陸の生きものへ運ばれる、この一続きのつながりが知床の特徴です。
四川省のジャイアントパンダ保護区群とくらべる
知床とパンダ保護区群はどちらも自然遺産ですが、満たす基準が違います。知床は(ix)(x)で、生態系のはたらきと生物多様性の両方が評価されました。パンダ保護区群は(x)だけで、絶滅のおそれがある種とその生息地が評価されています。
覚えておきたいこと
- 2005年・北海道・自然遺産
- 流氷が海と陸のつながりを支える
- 登録基準は(ix)(x)
3級
3級向けに理解を深める
(ix)と(x)の二つで登録された日本で唯一の自然遺産です。二つの基準が何を見ているのかが、はっきり分かれます。
どういう遺産か
登録範囲は半島の中央部から先端(知床岬)までと、周辺の海域です。陸だけでなく海が入っているのが、ここの特徴です。
(ix) — 海と陸のつながり
(ix)は「生態系や生物の進化が、いまも続いていることを示すもの」。UNESCO は知床について、海の生態系と陸の生態系が影響し合っている傑出した例であり、並外れた生態系の生産力を持つと説明しています。その生産力を生んでいるのが、北半球でもっとも低い緯度にできる季節海氷です。流氷が、海と陸の両方を養っている。これが(ix)の中身です。
(x) — そこにしかいない生きもの
(x)は「生物多様性の保全にとってもっとも重要な生息地」。UNESCO が名前を挙げているのは、シマフクロウとシレトコスミレ(Viola kitamiana)。どちらも絶滅のおそれがある固有の種です。絶滅危惧の海鳥と渡り鳥、複数のサケ科、トドや鯨類にとっても世界的に重要だとされています。
(ix)と(x)はどう違うのか
(ix)は「はたらき」、(x)は「顔ぶれ」と考えると分かりやすいです。(ix)は海と陸がどうつながっているかという仕組みを見ます。(x)はそこにどんな生きものがいるかを見ます。知床は両方で認められました。
日本の自然遺産5件を並べる
屋久島(vii)(ix)/白神山地(ix)/知床(ix)(x)/小笠原(ix)/奄美ほか(x)。(vii)を持つのは屋久島だけ、(x)を持つのは知床と奄美ほかだけ。(ix)は5件中4件に入っています。日本の自然遺産は、見た目の美しさより「はたらき」で認められているものが多い、ということが数から読み取れます。
3級で押さえること
- 2005年・北海道・自然遺産・登録基準(ix)(x)
- 登録範囲に周辺の海域が入っている
- (ix)は海と陸のつながりという「はたらき」、(x)は固有種という「顔ぶれ」
2級
2級向けに理解を深める
どこまでが遺産なのか — 海が3km 入っている
登録範囲は71,100ha。境界はすでに法律で指定されていた保護区域をたどって引かれています。
海側の境界は、海岸線から3km。UNESCO はこれを水深200mに対応すると説明しています。距離で決めたのではなく、深さで決めた線を距離に直したものです。
なぜ海が入るのか。陸の生態系と海の生態系が結びついていることが、この遺産の価値だからです。海を外したら、その結びつきが示せません。
屋久島・白神山地は陸だけでした。知床は海陸がひと続きであることが範囲の決め方に出ています。
完全性 — 漁業が続いている場所であること
UNESCO は、境界がひとつながりの生態系の保全区域をすべて含んでいるとしています。陸の重要な要素と、海の生物多様性にとって重要な海域の両方です。
そのうえで、漁業に触れています。この地域でとても重要な漁業が長く続いてきたこと、近年の持続可能性への取り組みが、地域の経済と自然の価値の両立に役立つだろう、と書かれています。
人の営みが「無いほうがよい」とは書かれていません。白神山地は「人が入れなかったから残った」でした。知床は、人の営みが続いたまま完全性が保たれているという形です。
同じ自然遺産でも、人との関係の書かれ方が違います。
誰が守っているか — 陸と海で法律が違う
知床を守る法律は複数あります。
- 自然環境保全法(1972年)
- 自然公園法(1957年)
- 国有林野の管理経営に関する法律(1951年)
- 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存法(1992年)
海の部分は別の仕組みです。漁業や海洋汚染を扱う規則で守られ、漁業法にもとづく北海道海面漁業調整規則などに従って管理されています。
陸は自然保護の法律、海は漁業の法律。海陸がひと続きの遺産では、守る法律も二系統になります。
役所は環境省・林野庁・文化庁・北海道庁。オオワシ・オジロワシ・シマフクロウなどの希少種も、種の保存法で指定されています。
観光という課題
UNESCO は観光が遺産の中で重要性を増している課題だとしています。夏に多数が訪れ、ほかの季節も増えている、と。
課題として書かれていることを、課題として読みます。「世界遺産になったから安泰」ではありません。2級では、登録後も管理が問われ続けるという点まで見ます。
2級で押さえること
- 登録範囲 71,100ha。海側は海岸線から3km=水深200m に対応
- 海陸がひと続きであることが価値。海を外せば結びつきを示せない
- 完全性は漁業が続いたまま保たれている。白神山地の「入れなかったから残った」と対照的
- 陸は自然保護の法律、海は漁業の法律。二系統で守る
- 観光は課題として書かれている。登録後も管理は問われ続ける
同じ論点が出てくる記事
2級の中心は、個別の暗記ではなく横断にあります。この記事で出てきた論点は、ほかの記事にも出てきます。
同じ完全性でも、保たれ方が正反対になる
人がいないから保たれた遺産と、人が使い続けたから保たれた遺産がある。
- 白神山地 … 分断されておらず、人の施設が範囲内にない
- 知床(この記事)… 漁業が続いたまま保たれている
- 原爆ドーム … 廃墟のままであることが完全性
- 屋久島 … 自然遺産の完全性は「はたらきが切れていないか」
- 登録基準 … 完全性は第88項の三つで見る
この記事の出どころ
- UNESCO World Heritage Centre, Shiretoko (ID 1193) — Integrity / Protection and Management Requirements(2026-10-05 取得)
級別の確認問題
4級 確認問題
答えを選んでから、正解と解説を開きましょう。
確認1:知床がある都道府県は?
- 北海道
- 青森県
- 岩手県
- 新潟県
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正解:1.北海道
知床は北海道にあり、オホーツク海へ突き出した知床半島とその周りの海が範囲です。
確認2:知床の登録区分は?
- 文化遺産
- 自然遺産
- 複合遺産
- 無形文化遺産
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正解:2.自然遺産
海と陸の生態系のつながりが評価された自然遺産です。登録基準は(ix)(x)です。
確認3:知床の海の豊かさを生み出しているものは?
- 流氷
- 火山の噴火
- 氷河
- サンゴ礁
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正解:1.流氷
北半球でもっとも低い緯度で海が凍ります。流氷ができることで栄養に富んだ水が生まれ、海の豊かさにつながります。
確認4:知床で「海から山へ」恵みを運んでいるものは?
- 川をのぼるサケ
- 渡り鳥だけ
- 風で運ばれる砂
- 人が運ぶ肥料
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正解:1.川をのぼるサケ
海で育ったサケなどが川をのぼり、ヒグマやシマフクロウの食べものになります。
3級 確認問題
確認1:知床の生態系の生産力を支えているとUNESCOが説明しているものは?
- 火山活動による地熱
- 大陸から流れ込む大きな河川が運ぶ栄養
- 年間を通した高い気温
- 北半球でもっとも低い緯度にできる季節海氷
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正解:4.北半球でもっとも低い緯度にできる季節海氷
流氷が海と陸の両方を養っていることが、海と陸の生態系が影響し合う傑出した例として評価されています。
確認2:登録基準(ix)と(x)の違いの説明として正しいものは?
- (ix)は陸、(x)は海を見る
- (ix)は植物の種類、(x)は動物の種類というように、対象を分けて見る
- (ix)は生態系のはたらき、(x)はそこにいる生きものの顔ぶれを見る
- (ix)は文化、(x)は自然を見る
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正解:3.(ix)は生態系のはたらき、(x)はそこにいる生きものの顔ぶれを見る
(ix)は海と陸がどうつながっているかという仕組み、(x)はどんな生きものがいるかを見ます。知床は両方で認められました。
確認3:知床の登録範囲についての説明として正しいものは?
- 半島の陸域に加えて、周辺の海域も含まれる
- 半島の陸域だけが含まれる
- 知床岬の先端のあたりだけが範囲に含まれる
- 北海道全域が含まれる
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正解:1.半島の陸域に加えて、周辺の海域も含まれる
半島の中央部から先端(知床岬)までと、周辺の海域が含まれます。海と陸のつながりが評価されているため、海が範囲に入っています。
確認4:日本の自然遺産5件のうち、登録基準(vii)を持つものは?
- 知床だけ
- 屋久島だけ
- 白神山地と知床
- 5件すべて
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正解:2.屋久島だけ
屋久島(vii)(ix)/白神山地(ix)/知床(ix)(x)/小笠原(ix)/奄美ほか(x)。(vii)=自然美を持つのは屋久島だけです。
2級 確認問題
確認1:知床の登録範囲71,100ha には、海岸線から3km の海域が含まれる。この3km という線引きの説明として正しいものは?
- 流氷が接岸する範囲に合わせたもの
- 領海の範囲に合わせたもの
- 漁業権の及ぶ範囲に合わせたもの
- おおむね水深200m にあたる範囲に対応したもの
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正解:4.おおむね水深200m にあたる範囲に対応したもの
海側は海岸線から3km=おおむね水深200m に対応します。海陸がひと続きであることが価値なので、海を外すと結びつきを示せなくなります。
確認2:知床では登録範囲の内側で漁業が続いている。完全性の観点ではどう扱われているか?
- 漁業は完全性を損なうので、段階的に縮小することが登録の条件になった
- 漁業が続いたまま完全性が保たれていると評価されている
- 漁業は緩衝地帯でのみ認められている
- 漁業は登録後に新たに許可された
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正解:2.漁業が続いたまま完全性が保たれていると評価されている
人の営みがあることが、それだけで完全性を損なうわけではありません。知床は漁業が続いたまま保たれていると評価されています。白神山地の「人の施設が無い」形とは対照的です。
確認3:知床の保護管理について正しいものは?
- 陸は自然保護の法律、海は漁業の法律という二系統で守っている
- 海域には法的な保護がかかっていない
- 保護は北海道庁が単独で担っている
- 陸と海を一つの法律で一体的に守っている
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正解:1.陸は自然保護の法律、海は漁業の法律という二系統で守っている
海陸がひと続きであることが価値ですが、守る法律は分かれます。関わる主体は環境省・林野庁・文化庁・北海道庁で、UNESCO は「複雑だがよく機能している」と書いています。紀伊山地は「統合して適用できる」、小笠原は「衝突を地域連絡会議で解決する」でした。
確認4:知床について、UNESCO が保護管理の節で課題として挙げているものは?
- 漁業
- 侵略的外来種
- 流氷の減少
- 観光
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正解:4.観光
登録後も管理は問われ続けます。なお漁業は課題ではなく、漁業が続いたまま完全性が保たれていると評価されています。侵略的外来種は小笠原で「完全性の問題の最も重要なもの」とされていました。何が課題になるかは遺産ごとに違います。
対になる遺産
参考資料
確認日:2026年9月30日。世界遺産ゼミは非公式の学習コンテンツです。確認問題は独自に作成しています。特定の試験回への対応は未確定です。